Essay エッセイ
ペロポネソス半島を訪れる

ペロポネソス半島を訪れるたび、さまざまな感情が起こってきます。このあいだの訪問も例外ではありませんでした。
ギリシャ本土の最南端の地であるこの場所は、ギリシャの長い歴史を通じて、ギリシャの運命だけでなく、ヨーロッパ、そして西洋文化の運命に非常に重要な役割を果たしてきました。
古代のミケーネ文明の中心地であったばかりでなく、スパルタ人たちによるテルモピュライの防戦をもって、ペルシアの侵攻に対する最終的な勝利に決定的な役割を果たしました。 その後に古代ギリシャ文明が花開いたのです。この国の現代史においても、トルコの支配に対する蜂起がなされて、ギリシャを今日の姿にあらしめた独立戦争が起こったのもここだったのです。
コリント湾を渡ると、あたかも教会の入り口を横切っているような気がします。この場所は私にとって神聖な感覚をもたらすのです。
まずスパルタを訪れることにしたのは、ギリシャに到着して2日後でした。 オルガノン(ORGANON)の栽培者がオリーブを摘み終わるのに間に合うよう、私はできるだけ早くそこに行かなければなりませんでした。 私の古い車は、私が日本にいる間、アテネで埃をかぶりながら私を待っていてくれて、私を失望はさせませんでした。
そのときはまだ分かりませんでしたが、それが私の滞在中の最良の旅だったのです。天気は素晴らしく、太陽は輝いていました。その後は雨が降り雪が降り、風が強くなり、また雨が降ったのでした。
予期していたとおり、私はニコス = クリスタコス氏とその奥さんがオリーブ園でオリーブを摘んでいるのを見つけました。ニコスさんはとても忙しい人です。 地元の高校で英語を教えていないときは、オリーブや野菜の有機栽培者となり、また有機的に豚や鶏、子羊を育ててもいます。
彼の活動はそこにとどまりません!
彼はまた養蜂家でもあり、最高の味の野生種蜂蜜を生産しているのです。
しかしこの素晴らしい人には、まだあります! 彼は「Organon」すなわちクロキース有機栽培農家協同組合の組合長なのです。
これらの活動の合間に、彼はギリシャの歴史と哲学を勉強することにも時間を割き、ラコニア地域の歴史の専門家でもあります。
驚くべきことは、この人が決して急いでいない、という事実です!
彼と、同じく教師である魅力的な彼の奥さんは、私のために時間を惜しむことはありませんでした。私たちは一緒に、ヴァサラス村でオリーブ圧搾場の「リョテュリビ」を訪れました。 今も残る伝統的な、テクノロジーに抵抗している数少ない場所の1つで、そこで「ORGANON」のオリーブ油が圧搾されているのです。その匂いは私をキミ村でのわが幼少時代に引き戻してくれました。
また私が写真を撮って回ったことは村の人々の興味を惹きました。残念ながら、知らないうちにオイルがレンズにはねて付着していたため写真はうまく撮れませんでした。

中央でマイクを持って歌っているのがクリスタコス氏。
和やかな、楽しい様子がとってもよくわかりますよね!
お客様が撮って来られた写真をもとに、そのお母様である松井京子様がお描きになったものです。
ありがとうございました。
ヴァサラスは、スパルタの東、パルノナス山の斜面地域にある古い村です。そこはクリスタコス夫人が生まれたところであり、彼女の両親は今でもそこに住んでいます。 彼らは私たちをその家に歓待してくれました。非常に古く、非常に伝統的な農家で、私たちの故郷キミ村でもそうだったように、庭にかまどがありました!
私たちはさらに山を登ってヴェリアまで行きましたが、残念ながら今ではそこは夏の間だけの村です。ひとつのコミュニティ全体がそこに住んでいたのも、そう何年も前のことではありません。 でも今はだれも住んでいません! 夏の間の数週間、人々が都会の熱気から逃れて涼しい山の気候を求めてやってくるだけなのです。
ここは蜂蜜の国です。ニコスさんが樅の木の蜂蜜を取るため、ミツバチの巣箱をここに持ってきます。ここからの眺めは壮麗です。 眼下のパルノナス山とタイゲトス山の間のエヴロタス河谷が、この地域を有名にしている最高品質の産品?? オレンジ、レモン、いちじく、ぶどう、そしてもちろん、おそらく世界で最高のオリーブオイル??の生産に絶好の気候的条件を与えているのです。
私の滞在した2日間、ニコスさんは素晴らしい主人役を務めてくれました。彼のおかげで、私はたいへん多くの人々(ほとんどは彼の以前の生徒たち)に会いました。 そして私は彼から、その地域の歴史をすべて教わりました。私が学ぶだけの時間があったのです。
スパルタ人の故郷であるラケデモ二アの地の、真の大使。彼自身スパルタ人であり、真のギリシャ人。数千年を通じて変わらぬギリシャ人の姿です。

有限会社ノスティミア
A. Fragkis